oginomad = 荻野窓

カレー(スープカレー優先)を中心に荻野窓

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ブライアン・ウィルソンの素晴らしい世界

BRIAN WILSON / THAT LUCKY OLD SUN ('08)

ブライアン・ウィルソンが新作を出した。あの「スマイル」完成版の次の一作。曲がいい。演奏がいい。録音がいい。ハーモニーがいい。アレンジがいい。歌詞がいい。メッセージがいい。ポップである。ロックである。コンセプトアルバムである。トータルアルバムである。しかも、全曲キャッチー。わかりやすい。しかも深い。これが完璧なアルバムなのだ。

ペット・サウンズを出した42年前より、渋さと深さが加わっている。複雑さが増えた分、曲の輪郭がとらえにくくなっているし、あの胸をしめつけるような哀しみは感じないが、その分、マジカルな世界に入りこみ、迷い込み、ひたすら浸ることができる。かくも素晴らしきブライアン・ウィルソンの世界。

完全に麻薬もやっていない、精神的にも安定した、健康的な人間、ただし天才、の世界は、脳と心の可能性を感じさせてくれる。ジム・モリスンジミ・ヘンドリックスジャニス・ジョプリンジョン・コルトレーンがこの世界に達するには、やはり死の淵からの復活が必要だったに違いない。

ブライアンとは違い、精神を病まず、健康を損なわず、ヒット曲を絶え間なく出し続けたポール・マッカートニーがこれを聴いて、ひょっとしたら悔しがっているかも知れない。66歳のブライアン、まさかの全盛期が再び来ている。ヒットする類いではないが、とにかく良質なポップ・ミュージックだ。